
目次
親の相続で実家を兄弟と共有名義にしたものの、「自分は住んでいないし、管理も大変」「共有者同士で意見が合わない」といった理由から、自分の持分だけを手放す方法として、専門の買取業者への売却を検討する方は少なくありません。
しかし、いざ手続きが進み始めると不安になるのが、持分だけ売った場合でも確定申告は必要なのか?、後から税務署に指摘されてペナルティを払うことにならないか?、といったことではないでしょうか。
結論から言うと、共有持分の売却でも、譲渡益(利益)が出る場合は原則として確定申告が必要です。一方で、譲渡損失(損失)となる場合は申告が不要なこともありますが、特例を使うときなどは申告が必要になるため、合わせて確認しましょう。
本記事では、共有持分を売却した際の確定申告の要否や、税金の計算方法、相続物件ならではの注意点を分かりやすく解説します。売却後まで見通しを立て、安心して共有状態を解消するための参考にしてください。
この記事でわかること
- 共有持分の売却で確定申告が必要か不要かの判断基準
- 譲渡所得の計算方法(持分割合・取得費・譲渡費用)
- 所有期間による税率の違いと、相続時の取得日の考え方
- 取得費がわからない場合の5%ルールと税負担増の注意点
- 特別控除・特例の適用可否と、思い込みによるリスク
目次
共有持分を売却したら確定申告は必要か不要か

不動産全体ではなく自分の持分だけを売った、という状況であっても、税務上の扱いは通常の不動産売却と変わりません。まずは、自分が確定申告の対象になるかどうかを確認しましょう。
1-1 原則として確定申告が必要になるケース
不動産を売却して得た利益は税法上「譲渡所得」と呼ばれ、課税対象となります。以下の条件に当てはまる場合は、原則として確定申告が必要です。
参照:国税庁『譲渡所得の計算のしかた(分離課税)』
たとえ持分のみの売却であっても、利益が出ていれば申告義務がなくなることはありません。また、この譲渡所得は「申告分離課税」といって、給与所得や事業所得とは別枠で税額を計算する必要があります。
1-2 確定申告不要になりやすいケース
逆に、売却しても申告が不要になるのは以下のようなケースです。
不動産を売った金額よりも、その不動産を手に入れるためにかかった費用(取得費)と、売るためにかかった費用(譲渡費用)の合計が上回る場合、税金は発生しません。原則として確定申告が不要になることもありますが、特例の適用や、ほかの事情で申告が必要になる場合もあるため、次の例外も確認しましょう。
注意
- 土地や建物の譲渡で生じた譲渡損失は、他の土地建物の譲渡益とは相殺できる一方で、控除しきれない部分を給与所得など他の所得と損益通算することは原則できません。
1-3 譲渡損失でも申告した方がいい例外
利益が出ていなくても、あえて確定申告をすることでメリットを受けられる、あるいは申告が必須となるケースがあります。
居住用財産(マイホーム)の譲渡損失について、損益通算・繰越控除の特例を使う場合
自分が住んでいた家(居住用財産)を売却して損失が出た場合、一定の要件を満たせば他の所得と相殺したり、翌年以降に損失を繰り越せたりする特例があります。これを利用するには確定申告が必要です。
「3,000万円の特別控除」などの特例を適用した結果、最終的な税額がゼロになる場合でも、「特例を使うこと」を税務署に報告するために確定申告が必要です。
参照:国税庁『マイホームを売ったときの特例』
ただし、相続した実家に住んでいない共有者が持分だけを売却するケースでは、これらの居住用特例に該当しないことも多いため、慎重に判断する必要があります。
共有持分売却時の譲渡所得と税金の計算方法

共有持分の売却であっても、計算の基本は通常の不動産売却と同じです。ただし、「不動産全体の金額 × 自分の持分割合」で計算する点に注意しましょう。
持分割合は、法務局で取得できる「登記事項証明書(登記簿)」に記載されている割合(例:2分の1など)を使用します。
2-1 譲渡所得の基本的な計算式
譲渡所得(課税対象となる利益)は、以下の式で算出します。
譲渡所得の計算式譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)
- 譲渡価額: 共有持分の売却価格
- 取得費: 持分を手に入れるためにかかった費用
- 譲渡費用: 持分を売るために直接かかった費用
参照:国税庁『譲渡所得の計算のしかた(分離課税)』
2-2 譲渡費用に含まれるもの
売却のために直接支出した以下の費用が「譲渡費用」として認められます。
- 仲介手数料: 仲介会社を利用した場合に支払った報酬
- 印紙税: 売買契約書に貼付した収入印紙代
- 測量費: 売却のために境界確定等を行った場合の費用
- 登記費用: 住所変更登記や、売却にあたって必要となった司法書士報酬
- 建物解体費: 建物を壊して更地として持分を売却した場合の費用
参照:国税庁『譲渡費用となるもの』
2-3 相続した不動産で取得費が分からない場合
相続した物件の場合、取得費は「亡くなった親(被相続人)がその物件を購入した時の代金」を引き継ぎます。
しかし、数十年前に購入した実家などは売買契約書を紛失しているケースも少なくありません。その場合、売却価格の 5% を取得費(概算取得費)として計算できるという特例が適用されます。
実際の購入価格が売却価格の5%より高かったとしても、証明書類がない限り5%で計算せざるを得ません。この場合、利益(譲渡所得)が大きく膨らんでしまい、税額が非常に高くなるリスクがあります。そのため、譲渡所得税の申告の前に、親の遺品の中に契約書や領収書がないかを必ず確認しましょう。
参照:国税庁『取得費が分からないとき』
譲渡所得税の税率は所有期間で変わる

譲渡所得にかかる税率は、その不動産を「いつから持っていたか」によって2段階に分かれます。
3-1 長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率
譲渡所得税を計算する際の税率は、売却した年の1月1日時点において、物件の所有期間が5年を超えるかどうかで判定します。
| 区分 | 所有期間 | 税率 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%(所得税15%+復興特別所得税+住民税5%) |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63%(所得税30%+復興特別所得税+住民税9%) |
※所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が2037年(令和19年)まで付加されます。
参照:国税庁『長期譲渡所得の税額の計算』『短期譲渡所得の税額の計算』
3-2 相続不動産の取得時期の判定方法
「親から相続してまだ1年だから、税率が高い『短期』になってしまうのでは?」と懸念されるかもしれませんが、相続においては税制上の配慮がなされています。
相続の場合、名義変更日や相続登記日がいつであるかは関係なく、取得日は「被相続人(亡くなった親など)が取得した日」をそのまま引き継げることになっています。
仮に親が30年前に購入した実家であれば、たとえ相続した直後の売却であっても、長期譲渡所得の低い税率が適用されるということです。
参照:国税庁『相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期』
特別控除や特例が使える可能性と注意点

不動産売却には税負担を軽減する特例がいくつかありますが、共有持分の売却、特に「相続した実家」のケースでは適用条件がシビアになります。
4-1 3,000万円特別控除が使えるか
マイホームを売った際に利益から最大3,000万円を控除できる「居住用財産の特別控除」ですが、実家に住んでいない共有者が持分だけを売却する場合、原則として適用は難しいと考えたほうがよいでしょう。
この特例はあくまで「本人が実際に住んでいること」が条件であり、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があるためです。
また、共有者ごとに適用の可否が判断されるため、同居していた兄弟は控除が受けられても、外に出ている自分は受けられないといった差が生じる可能性がある点も注意が必要です。
出典:国税庁『マイホームを売ったときの特例』
4-2 特例の適用を前提にしていると危険
何よりも避けたいのは、「特例が使えるはずだ」という前提で譲渡所得を少なく見積もり、実際には要件を満たしていなかったことが後から発覚する事態です。
納税額を抑えたい一心で、居住実態や取得費を自分に都合よく解釈して申告(あるいは無申告を選択)すると、以下のような大きなリスクを背負うことになります。
申告内容に疑義があると判断されれば、税務署から問い合わせや調査が入り、正しい内容での申告を求められます。
本来納めるべき税金に加え、過少に申告していたことへのペナルティである「過少申告加算税」や、納付が遅れた期間分にかかる「延滞税」が発生します。
安易な自己判断で「使えるはず」と決めつけず、まずは客観的な状況に基づいた正しい譲渡所得を把握することが、結果として自分自身の身を守ることに繋がります。
参照:国税庁『確定申告を間違えたとき』『延滞税につき』
確定申告の手順と共有持分売却後の注意点

売却が決まったら、最後の手続きである確定申告の準備を進めましょう。
5-1 確定申告の期限と必要書類
不動産を売却した場合、翌年の2月16日から3月15日までが確定申告の期間です。手続きには以下の書類が必要になります。
自分で作成するもの
- 確定申告書第一表、第二表
- 確定申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
取引・相続時に保管しておいたもの
- 売買契約書の写し(売却時・購入時の両方)
- 取得費を確認できる書類
- 譲渡費用を確認できる書類
- 相続関係書類(遺産分割協議書など)
役所や法務局などで入手するもの
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 本人確認書類
準備するのに時間がかかる書類もあるため、申告期限に遅れないよう、売却が決まった段階から計画的に準備を進めておきましょう。
参照:国税庁『確定申告』『申告手続き(譲渡所得関係 申告書添付書類)』
5-2 共有持分を買取に出す前に意識しておくこと
共有持分の売却は、専門業者から入金があった時点で終わりではありません。その後の確定申告までが一連の流れです。提示された売却価格が高く見えても、そこから譲渡所得税や住民税を差し引いた金額が、あなたの「本当の手残り」になります。
特に取得費が不明で「5%ルール」を適用する場合や、まれに短期譲渡に該当する場合は、想定以上に税額が膨らむことがあります。
想定外の税負担で苦労しないためには、売却活動の早い段階で、概算でもよいので税額を把握しておくことが重要です。
まとめ:確定申告まで見通して、共有状態を早めに終わらせるために

共有持分売却時の確定申告についてのまとめ
- 譲渡益が出る場合は、共有持分の売却でも確定申告が必要
- 譲渡損失が出ると申告不要になりやすいが、例外として申告が必要な場合もある
- 譲渡所得は「売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)」で算出する
- 相続不動産の取得日は、被相続人による取得日を引き継ぐ
- 取得費不明時の5%ルールや特例の要件誤認によって、想定より税負担が大きくなることがある
共有持分の売却において、確定申告や税金の整理は避けて通れない重要なポイントです。特に相続が絡む場合、取得費の扱いや特例の可否など、売却後になって初めて悩むケースも少なくありません。
売却後の税金トラブルを避けるための一歩は、計算を急ぐことではなく、まずご自身のケースで使える特例や、想定される税負担を事前に把握することから始まります。
ラクウルでは、共有持分・相続が絡む不動産・税金の取り扱いに関するご相談に特化した窓口を設けております。査定だけのご利用、情報収集だけのご相談も歓迎しております。もちろん、ご相談いただいたからといって売却を急かすことはありません。
取得費が分からない、特例が使えるか判断できない、といった個別のご事情がある方も、どうぞお気軽にご相談ください。
この記事のまとめQ&A
共有持分を売却したときに確定申告は必要ですか?
共有持分を売却して利益(譲渡益)が出た場合は、原則として確定申告が必要になります。売却価格と取得費・譲渡費用との差額が譲渡所得となった場合、その計算を行い申告する必要があります。
共有持分を売却したときに確定申告が不要になるケースはありますか?
譲渡損失(売却価格が取得費や譲渡費用を下回る場合)が出た場合は、原則として確定申告が不要となるケースがあります。ただし、特別控除や損益通算を利用したい場合には申告が必要になることがあります。
共有持分を売却したときに譲渡所得税の税率はどのように決まりますか?
譲渡所得税の税率は、共有持分の所有期間によって異なります。一般に5年以下の短期譲渡は約39.63%程度、5年超の長期譲渡は約20.315%程度の税率が適用されます。この税率には所得税・住民税・復興特別所得税が含まれています。
共有持分を売却したときに確定申告の期限や手続きはどうなっていますか?
不動産の売却で確定申告が必要な場合、売却した年の翌年の2月16日から3月15日までに申告・納税を行う必要があります。譲渡所得の内訳書や取得費・譲渡費用の証明資料をそろえて申告します。
共有持分の売却で使える特別控除や注意点はありますか?
居住用財産の3,000万円特別控除などの税制優遇がありますが、共有持分の売却では適用要件を満たさないこともあります。また、取得費が不明な場合の5%ルールや特例適用の要件誤認には注意が必要です。税務署への申告内容の誤りは追徴税やペナルティの対象になる可能性があります。



