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親が亡くなり、遠方に暮らす自分が、ほかの共有者と共有名義で実家を相続する流れになっている。管理に関わるつもりはなく、固定資産税や維持費の負担を考えると気が重い。そんな状況で「自分だけ相続放棄をすれば、この共有関係を背負わずに済むのではないか」と考える方も多いはずです。
ただ、相続放棄では遺産のすべてが対象になるため、預貯金など他の財産は受け取りつつ共有持分だけを手放すことはできません。
本記事では、相続放棄で何が起きるのかを整理し、他の財産は受け取りながら共有持分だけを手放す方法までを解説します。
この記事でわかること
- 相続放棄で共有持分だけを手放せない理由
- 相続放棄後も残る管理義務と費用
- 単純承認・相続放棄・限定承認の判断基準
- 預貯金を残して持分だけを手放す方法
- 持分放棄と持分売却の違いと選び方
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共有持分「だけ」の相続放棄はできない

相続放棄と聞くと、いらない共有持分だけを選んで手放せる制度のように思えるかもしれません。しかし相続放棄は、被相続人が残した財産すべての相続権を手放す手続きであり、財産の種類ごとに選り分けることは想定されていません。
まずは、相続放棄の基本的な考え方と、相続放棄をすると不動産や預貯金がどう扱われるのか、借金の有無がはっきりしないときにどう判断すればよいのかを順に見ていきます。
1-1. 預貯金を含めたすべての遺産を手放すことになる
相続放棄は、被相続人が残した遺産をまるごと受けるか、まったく受けないかを決める手続きです。共有持分だけでなく、預貯金や有価証券などのプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、すべてが対象になります。
そのため、管理の手間や固定資産税の負担を避けたい一心で相続放棄を選ぶと、本来なら受け取れたはずの預貯金などの財産まで一緒に手放すことになります。共有持分の負担から解放される面だけに目を向けず、放棄が自分の目的に本当に合うのかを見極める必要があります。
1-2. 自分が相続放棄をした場合不動産はどうなる?
相続放棄をすると、法律上は初めから相続人でなかったものとして扱われ、受け取るはずだった共有持分は、相続を承認したほかの共有者へ移ります。つまり、実家を相続する人がもうひとりだけなら、その人が不動産をまるごと単独で所有することになります。
ここで注意したいのは、単独所有になるということは、相続した人の負担が増えることを意味するという点です。本来は他の人と分け合うはずだった固定資産税や管理の手間、維持費を、相続した人がひとりで抱えることになるためです。
相続放棄は共有持分を自分の手から切り離す手続きですが、その不動産にまつわる負担そのものがなくなるわけではありません。自分の負担は軽くなっても、引き受けるのはほかの共有者であって、問題が片付いたわけではない点は、相続放棄を決断する前に押さえておきたいところです。
1-3. 相続財産の全容が不明な場合は「限定承認」も検討する
相続放棄か単純承認かを決めかねるのは、被相続人に借金がどれだけあるかはっきりしない場合です。
たとえば、プラスの財産が共有持分などで500万円程度あるとして、借金が300万円とわかっているなら、財産の総額が借金を上回るので、相続財産全てを相続する「単純承認」が向いています。一方で、借金が800万円と判明しているなら、財産を超える負債を背負わずに済む「相続放棄」が選択肢になります。
問題は借金の総額が読めないケースで、このときに検討したいのが限定承認です。限定承認は、受け継ぐ財産の範囲内で借金を返済し、それを超える負債までは引き継がないというものです。
ただし、限定承認には使いにくい面があります。手続きを進めるには相続人全員がそろって申述することが条件で、共有持分を相続したいと考える相続人がひとりでもいれば、限定承認は選べません。さらに、官報公告などの実費も数万円から十数万円かかり、手続き自体も煩雑なため、利用する人は多くありません。
また限定承認では、含み益のある不動産などについて、相続開始時の時価で売却したとみなして被相続人に所得税が課される場合もあります。
手続きの負担も含め、専門家への相談を前提に進める方法だと考えておくと良いでしょう。
相続人全員が放棄したら不動産はどうなるのか

相続放棄をすれば、実家とは一切関わらずに済むと思われがちですが、ここでも注意が必要です。
放棄したのが自分だけであれば、相続するはずだった共有持分は、実家を引き受けるほかの相続人へ移ります。管理の責任も引き受けた人に渡るため、放棄した本人がいつまでも背負い続けることはありません。
問題は、他の相続人もそろって放棄した場合です。引き受け手がいなくなれば、不動産の権利は宙に浮いた状態になります。残った管理の責任は誰が負うのか、不動産の権利は最終的にどこへ向かうのかを、あらかじめ知っておきたいところです。
この章では、相続人全員が放棄した場合に、管理義務がいつまで・誰に残るのか、実家の権利がどうなるのかを解説します。
2-1. 全員放棄でも現に占有していた人には保存義務が残る
全員が放棄して引き受け手がいなくなっても、管理の責任が誰に残るかは「現に占有していたか」で決まります。2023年4月に施行された改正後の民法では、放棄した時点で不動産を現に占有していた人は、相続財産清算人へ引き渡すまで、建物を保存する義務を負うとされています。
遠方で暮らし、実家の鍵を預かっているだけなら、現に占有しているとはいえず、保存義務が生じる可能性は低いです。一方、亡くなった親と同居し、放棄の時点でも住み続けていた場合は、引き渡しが終わるまで建物を適切に保存しなければならない可能性が高いといえます。
保存を怠り、たとえば老朽化した家屋が倒壊して隣家や通行人に損害を与えれば、賠償責任を問われるおそれもあります。全員が放棄しても、占有している以上は何の責任も負わないとはいえないのです。
2-2. 管理義務を免れるための相続財産清算人と予納金
相続人全員が放棄した場合、この管理責任から脱するには、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。
申し立てるときの課題が予納金です。清算人を選んでもらうには、その報酬に充てるお金を家庭裁判所に前払いする必要があり、20万円から100万円という額の負担が生じます。
つまり、占有していた本人が申し立てと予納金の両方を引き受けなければならないということです。他の相続人も相続放棄を検討しているなら、自分の分を手放す前によく見極めたいところです。
預貯金を相続しつつ共有関係から離脱する方法

前章までで見たとおり、相続放棄には預貯金まで手放すなどの制約があり、共有持分だけを切り離す方法にはなりません。それでも、一旦相続を承認して預貯金を受け取ったうえで、共有持分だけを手放す道は残されています。
方法は大きく2つです。持分を無償で手放す「持分放棄」と、自分の持分を売る「持分売却」です。ここからは、両者の進め方と注意点を順に比べていきます。
3-1. 相続したあとに自分の持分を手放す「持分放棄」
持分放棄は、相続放棄とは別の制度です。放棄した持分は、他の共有者に帰属します。借金など隠れた負債の心配がないなら、一旦相続を承認し、預貯金などの財産を受け取ったうえで持分放棄を選ぶのも一つの方法です。
ただし、持分放棄をするには、自分の所有権を他の共有者へ移す「持分移転登記」が必要です。この登記は受け取る側との共同申請なので、相手が応じてくれなければ手続きできません。
税金の面でも負担が生じます。無償で持分を受け取ったほかの共有者には、税務上「みなし贈与」として贈与税が課されます。そして注意したいのは、持分を放棄した本人も、この贈与税について連帯納付義務を負う点です。相手が納めなければ放棄した自分に支払いを求められることもあるため、権利のみを手放して終わりとはならないのが実情です。
3-1-1. 持分放棄には登記費用と贈与税の二重の負担がかかる
持分放棄でかかるお金は、贈与税だけではありません。放棄した持分をほかの共有者へ移す持分移転登記には、登録免許税がかかります。税額は「固定資産税評価額×2%×持分割合」で計算し、たとえば固定資産税評価額1,500万円の不動産で持分3分の1を放棄するなら、登録免許税は10万円です。登記を司法書士に依頼する場合は、数万円程度の報酬も別途必要です。
放棄する側は、登記費用を負担しながら、受け取る相手にはみなし贈与税という負担まで生じさせることになります。お金の面でも、相手との関係の面でも、気軽に選べる方法とはいえません。
3-2. 共有者の同意が不要な「自己持分の売却」
他の共有者と関わらずに共有から抜けたい人に、もっとも無理のない選択肢が自己持分のみを売却する方法です。
最大の利点は、他の共有者の同意が不要という点です。なかでも、共有持分専門の買取業者へ売る方法なら、売却後は不動産会社が新たな共有者になるため、その先の権利関係は不動産会社と残った共有者の間で進めてもらえます。つまり、他の共有者と直接やり取りせずに、共有関係と管理責任を手放せるということです。
買取価格は市場価格の2分の1から3分の1程度が目安になります。この水準であれば、売却したことで利益が発生した場合でも、譲渡所得税がかからないか少額で済むことがほとんどです。手続きも早く、専門業者であれば最短数日で共有関係から離れられます。
3-3. 相続放棄・持分放棄・持分売却の比較表
ここまで見てきた相続放棄・持分放棄・持分売却の3つを、費用や相手の同意の要否、税金、共有関係から抜けられるまでの早さといった観点で並べると、それぞれの向き不向きがはっきりします。自分の状況に当てはめながら見比べてみてください。
| 比較軸 | 相続放棄 | 持分放棄 | 持分売却(専門業者買取) |
|---|---|---|---|
| 他の財産の相続 | × | ○ | ○ |
| 他の共有者の同意・協力 | 不要(限定承認は相続人全員の共同が必要) | 不要(ただし持分移転登記に相手の協力が必要) | 不要 |
| 自分側の税金 | なし | なし(相手の贈与税の連帯納税リスクあり) | 譲渡益が出れば譲渡所得税 |
| 相手側の税金 | なし | 贈与税あり | なし |
| 手続き後の管理義務 | 全員相続放棄の場合で、占有していれば清算人に引き継ぐまで保存義務が残る | なし | なし |
| 費用の目安 | 数千円程度(全員相続放棄・占有時は予納金20〜100万円程度) | 移転登記の登録免許税+司法書士報酬 | なし |
| スピード | 専門家への依頼の場合受理まで1~2ヶ月程度 | 相手の協力があれば数週間 | 最短数日~数週間 |
表を見比べると、預貯金などの財産を相続しつつ、相手の同意や税金の負担を抱えずに共有関係から抜けたい場合に、条件を一度に満たせるのは持分売却です。あとは、自分の持分が実際にいくらで売れるのかが、判断のポイントになります。
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この記事のまとめ
- 相続放棄は全財産が対象で、預貯金を残して共有持分だけを手放すことはできない
- 相続放棄をしても、現に占有していれば管理義務が残り、消すには予納金と時間がかかる
- 借金の総額が不明なときは限定承認も選択肢だが、相続人全員の同意が必要で使いにくい
- 預貯金を受け取りつつ持分だけ手放すなら、相続を承認したうえでの持分放棄か持分売却になる
- 持分売却なら、他の共有者の同意も贈与税も不要で、自分の判断だけで進められる
共有持分の相続放棄では、相続できるはずのプラスの財産まで失い、占有していればすぐに管理責任から逃れられません。仮にそこまで受け入れる覚悟があっても、相続後に持分放棄で手放そうとすれば、引き取る他の共有者に贈与税という負担が及びます。どちらの道もハードルは低くありません。
リスクを最小限に抑えながら相続財産も守るには、いったん相続したうえで自分の持分を売却するのが現実的です。
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この記事のまとめQ&A
共有持分だけを相続放棄できますか?
共有持分だけを相続放棄することはできません。相続放棄は、預貯金や有価証券などのプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も含め、被相続人の遺産すべてを手放す手続きです。
相続放棄をすると実家の共有持分はどうなりますか?
相続放棄をすると、法律上は初めから相続人でなかったものとして扱われます。そのため、受け取るはずだった共有持分は、相続を承認した他の相続人へ移ります。
相続人全員が相続放棄した場合、不動産の管理義務は残りますか?
相続人全員が放棄した場合でも、放棄時点で不動産を現に占有していた人には、相続財産清算人へ引き渡すまで建物を保存する義務が残ります。管理責任から離れるには、家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。
預貯金を相続しつつ共有持分だけ手放す方法はありますか?
預貯金を相続しつつ共有持分だけを手放す方法としては、相続を承認したうえでの持分放棄または持分売却があります。ただし、持分放棄は他の共有者の協力や登記手続きが必要で、相手に贈与税が発生する可能性があります。
持分放棄と持分売却ではどちらが現実的ですか?
他の共有者の同意や税金負担を避けて共有関係から抜けたい場合は、持分売却が現実的です。自分の共有持分だけであれば、他の共有者の同意なしに売却でき、専門業者へ売却すれば早期に共有関係や管理責任から離れられます。



